遺伝子組み換え技術と食品について パート1

                                   
吉田総夫

1.生物の多様性

この地球上には、単紬胞の微生物から、無数の紬胞から成る高等な植物や動物まで、
さまざまな生物が生息している。最も簡単な生命体は、核酸とタンパク質だけから成
るウイルスで、紬胞をもっていないため、他の生物紬胞に寄生して増殖する。紬胞を
もつ生物にも、比較的簡単な構造の原核細胞をもつ単細胞の原核生物から、もっと複
雑な構造をもつ真核細胞から成り、しかもさまざまに分化した無数の細胞から成る高
等真核生物まであり、まさに、実に多様なのであるl)。
・生物の種は、200万から800万種までいろいろな意見があるが、未定である。
動物で最も多い種は昆虫である。約半分といわれている。
・高等植物は、現在約25万種といわれている。これでもなお約15%は未発見であ
るとされるが、1918年の既発見種が14万種であったことを考えると、もっと未
発見のものがあるかもしれない。)。
・生物の多様性という場合、遺伝子や種のレベル以外に生態系や立地(生育環境)の
多様性も議論される2}。
・原核細胞
明確な紬胞核をもたず、遺伝情報をもつDNAがタンパク質と結びついた染色体構
造をもっていないため、明確な染色体が観察されない。
・真核細胞
核膜に包まれた明確な細胞核をもち、DNAがヒストンというタンパク質と結合し
て染色体構造をつくっているため、明確な染色体が観察される。
・植物と動物の大きな差異の一つは、植物の紬胞が紬胞壁をもつ点である(図1)。






2.生態系


生態系とは、空間的、時間的に重なり合って生息し、たがいに有機的なつながりを
もつさまざまな生物種の個体群の集まりをいう。生態系内の有機的なつながりは、食
物連鎖と呼ばれる物質循環とエネルギー循環に典型的に見られるl)。



3.タンパウ質と核酸

生命現象の主役は、核酸とタンパク質である。
タンパク質は約50個から2500個ものアミノ酸よりなるポリペプチドであり、それ
ぞれ決められた機能をもっている。多くのタンパク質は酵素としての機能をもってお
リ,生体における化学反応を円滑に進める役割を果たしている。その他、栄養、栄養
の貯蔵や、腱や軟骨(コラーゲン)、毛や爪(ケラチン)などに含まれる構造タンパ
ク質、筋肉(アクチン、ミオシン)などに含まれる運動タンパク質がある。
・アミノ酸
アミノ酸はアミノ基(NH 2)とカルボキシル基(COOH)をもつ化合物の総称。
・ポリペプチド
アミノ酸分子は、アミノ基(NH2)とカルボキシル基で結合して鎖状の分子を形成
する。この分子をペプチドと呼び、10個以上のアミノ酸よりなるものをポリペブチ
ドとよぶ。
・酵素;細胞のもつ触媒である。

核酸にはDNA(テオキシリボ核酸:deoxyribonucleic acid)とRNA(リボ核酸)
があるが、RNAウイルスを除いて、DNAがあらゆる生命現象の設計図としての遣伝
情報をその塩基配列としてもっており、RNAのうち、伝令RNA(mRNA:メッセンジャー
RNA)が転写係を、転移RNA(tRNA:トランスファーRNA)が翻訳係を担っていて、RNA
を大量に含む細胞質中のリボソームが翻訳の場を提供している。
DNAはどの生物にも共通で、2本鎖のらせん構造をもっており、その鎖の上に4
種類の塩基が並んでいる。




DNAとRNAでは塩基が一種類違う(チミンとウラシル)DNAには遣伝子として働いて
いない部分があって、人聞の場合約7割が働いていないと見られているが、よくわかっ
ていない。4種類の塩基の3つで一組の情報となっている。一組の情報
を遣伝暗号といい、それに対応したアミノ酸に指令する.塩基は4種類であるから、連続
する3塩基の配列は64通りある。
一方、アミノ酸は20種類であり、表2のような対応になっている。64通りの遣伝
暗号のうち、61通りがいずれかのアミノ酸を指定する暗号であり、3通りは指定す
るアミノ酸をもたない停止暗号である。
このような遺伝暗号は、ウイルスからヒトまで、基本的に同じである。つまり、あ
らゆる生物が、基本的に同じ「言語」を使っている。このことは、地球上のあらゆる
生物が同一の起源をもつことを意味している。
生物の共通「言語」がわずか4種類のアルファベソトで、64種類の単語(遺伝暗
号)しかなくても、その単語を自由に並べて、それをアミノ酸配列に翻訳することに
よって、無限の可能性を産み出している。たとえばアミノ酸が2つ並ぶだけで400通
り、4つで16万通り、6つで6400万通りにもなる。




4 .遺伝子組み換え技術

く3つの道具>
@制限酵素(ハサミ)
DNAの特定の塩基配列を識別して、その部位でDNAの二本鎖を切る酵素で、さ
まざまなバクテリアから見つけられた。
ADNA連結酵素リガーゼ(ノリ)
切断されたDNAの二本鎖をつなぐ働きをする酵素。
BプラスミドDNA(DNAの「運ぴや」ベクター)
染色体DNAとは別に細胞内に存在する小さなDNAで、宿主特異性といって、そ
れが入りうる生物細胞が決まっているという性質をもっている。たとえぱ大腸菌のブ
ラスミドDNAは、大腸菌には入るが、他の細胞には入らない。運び屋として特定の
細胞に自由に出入りできる。




5.遺伝子組み換え体利用の食品・食品添加物

遺伝子組み換え食品には大きく分けて二つの種類がある。ひとつは食品をつくる手
段に遺伝子組み換え体を利用するもの、もうひとつは組み換えたものを食べてしまう
食品である。
前者は、図6のような方法で行う。現在は食品というよりも、もっぱら食品添加
物としての酵素づくりに用いられている。94年9月に厚生省が許可した食品添加物
「バイオキモシン」がある。
<問題点>
微生物はキモシンだけをつくるわけではなく、自分にとって必要なものも同時につ
くる。それが不純物となるので、除く必要があるが(遠心分離法と電気泳動法の併用)、
特定のタンパク分子のみを100%純粋な形で分離することは極めて困難である。とく
に大量生産する場合に純化がむずかしい。
事故例
@フランスのパスツール研究所で、臨床試験医薬として4人の患者に投与したところ、
3人がショック死。ヒトにとって異種タンパクである宿主のタンパクがわずかに混入。
A昭和電工のトリプトファン剤によりアメリカで88年から89年に大型薬害事件が発生した。




6.遺伝子組み換え体食品

遺伝子組み換え体作物は、種の壁を越えてさまざまな遣伝子を入れる方法で品種を
改良した作物である。たとえば病気に強い性質を作物にもたらす遺伝子では、植物の
干渉作用を利用する(図7)。干渉作用とは、人間の免疫反応のようなもので、自分
の体を守る機構である。


7.遺伝子組み換え食品の安全性

@導入遣伝子が作物自体に変化を引き起こす危険性
作物は長い品種の改良を経て今日の姿がある。品種の改良とはヒトが摂敢してはい
けない成分を徐々になくしていく過程でもある。その過程で、有害な成分をつくる遺
伝子が眠っている状態になっている。遺伝子組み換え技術は、作物の細胞にはかりし
れない衝撃を与えることになる。その衝撃によって、それまで眠っていた遺伝子が働
き、人問に有害な物質が産出されないか、懸念されている。日本の安全性評価指針で
は、このようなことは評価しなくてもよいことになっている。
逆に、遣伝子の働きを止めてしまうこともある.人間に有用な働きをする遺伝子だ
と重要な栄養素をつくる働ぎがなくなったり、有害成分を分解する酵素をつくらなく
なったりすることになる。
A導入遺伝子でつくり出された作物の長期摂取による影響
この作物はすべての紬胞で人問が摂取したことのないタンパク質をつくり出す。こ
のため慢性毒性や遣伝毒性、アレルギー(アレルゲンとなるタンパク質をつくり出す)
の危険性がある。
B抗生物質がきかなくなる危険性
導入遺伝子がうまく働いているかどうかを判定するのに、抗生物質耐性遺伝子を同
時に組み込み、作物に抗生物質(カナマイシン)を頒布して目印(マーカー)とする。
これが作物と一緒に摂取されると分解されずに腸まで達し、大腸菌に中に入り込めば、
抗生物質にきかない体になる恐れがある。


8.遺伝子組み換え作物の環境への影響

@組み換え作物自体の雑草化
A導入された遺伝子の野生植物への移行(遺伝子汚染)
遺伝子は化学物質と異なり、自己増殖する。
Bウイルスの遺伝子の一部を導入した植物が新しいウイルスを誕生させること.
放射線検出器のような組み換え微生物の漏洩を検出する方法がない。
C標的ではないほかの生物に危険性をもたらすこと


9.遺伝子組み換え作物の社会への影響

@食糧生産での企業支配
優秀なハイブリッド品種(別名F1品種、雑種一代自)が、F2世代で使い物になら
ないため、F1品種を特許企業から買い続けなければならないのと同じように、遣伝
子組み換え作物の種子も企業からしか買えない(完全な商品化)。
AF1化はモノカルチヤー化であると同時に脆弱化でもある。
B遺伝子資源の独占
C人為的に遺伝子の優劣を判定することによる危険
<野草、雑章、作物のちがい>
野章から雑章へと進化した。野草も雑草も同じことと考える人が多いだろうが、こ
れは区別できる。雑章とは人聞の作り出した環境に生ずるもので、人間文化の伝播と
ともに伝播し、地球上で雑草は常に野草より地理的分布がひろい。
雑草がもしまったくない畑だったら、パンコムギが出現してきたはずがない(二粒
系コムギの畑の中に混じった雑草のタルホコムギの花粉が二粒系コムギを受精させる
と、その子孫の中からパンコムギがあらわれてくること)。いまわれわれが食べてい
るパンのふくらみを愛する人は、それが雑革がムギ畑に生えていたおかげであること
を忘れてはならない。ムギと雑革との関係はこのように緊密なものである.

く人為的な遺伝子の排除の危険な例>
イタリアの孤島サルジニアの山岳地帯バルバジアの風土病とマラリアの関係。島民
がマラリアで全滅しなかったのは、遺伝病タラセミアのおかげといえる。
マラリアは正常の赤血球を持っている人に選択的に感染し、それを倒していく。タ
ラセミアの患者は、貧血という代償を払って、致命的な熱帯性マラリアから救われた
のである。この事実はまた、一見悪いように見える遺伝子が、特定の環境の中では生
存に有利に働くことを示している。人問のなまなかな知恵で、悪いと思われる遺伝子
を排除するなとということが、いかに危険であるかを示す例である。
<ウイルスは生物か>
日沼:ウイルスが生物かどうかが基本的に問題になったのは、1930年代にタパコモ
ザイクウイルスが結晶になったときです。みんな驚いたんです。こんなものが生き物
であるはずがない、というわけです。そして、いやこれはちやんと増殖する生き物だ
という意見とに分かれたんです。私はヴイルスは生き物であると、はっきりと定義し
ます。しかしそれは欠陥のある生き物なのです。なぜかというと、それ自身で勝手に
増殖できる生き物ではないのです。ウイルスは生きた細胞の中に潜り込んではじめて、
それをかりて自分の子孫を残すことができるのです。ウイルス自体では二つの重要な
装置を持っていません。タンバクを合成する装置も、エネルギーを生産する装置も持
っていないのです。しかしそれにもまして、ウイルスの生き物としての重要な属性は、
DNAという遺伝物質を持っているということです。あるいはRNAを持っているこ
となのです。RNAを遺伝物質として持っているのはウイルスだけでしょう。にもか
かわらず重大な欠陥を持っているので、欠陥生物、と呼ぶのです。
<昆虫について〉
昆虫は、厳密な意味の免疫をもっていません。それにもかかわらず、体の中はほと
んど無菌的で、非自己は入ってこないんです。なぜかというと、体の中に一種の毒物
をつくっていて、自分の細抱はそれに対する低抗性があるけれども、それ以外の、例
えぱ大腸菌などのような細菌が入ってくると、アッという間に溶かしてしまうんです。
そういう非常に原始的なものでも十分機能していて、見事に種を保存している。し
かし、人間のように生殖した後でも長生きする種が生まれてくると、免疫のような機
構が生まれ、いったん生まれてしまうと、非常に冗長で、それ自身が目的になるよう
に複雑化していく。そういうブロセスがあるような気がします。


10.根源的な問題

宿主紬胞にとっては、進化の途上でかって保持したことがない遣伝子を組み込まれ、
また、かってその紬胞内でつくり出したことがない、その生物細胞にとって不要なタ
ンパクを合成させられることが、はたしてどのような意味をもつのかという、これま
での生物学にとってまったく未知の新しい問題である。それは、あらゆる生物が長大
な進化の過程で築いてきた種の壁によって禁じられていたものであり、どんな生物学
者も、自信をもって予測することができない問題なのである。


11.農耕文化と作物

農耕文化基本複合はじつは石器時代いらい、現在までに全世界に四系統しか存在し
なかった。四つでなく四系統という意味は、それぞれの内部に分枝した亜系があるた
めで、亜系は常に地理的に棲み分けしており、同一地域内に重複して存在することは
ない。

根菜農耕文化
・パナナは全世界的にみると、果物の中でいちばん重要なものだ。その生産量はあら
ゆる果物の中でいちぱん多い。
・ヤムイモの苦み、強い毒性のあるものの毒消し法
生イモをまず蒸し焼きにして、それから流氷中で晒す方法である。この毒消し法は、
最初に加熱してから水晒しする方法で、生イモをいきなりすりつぶし、すぐ水晒しす
る簡便法とたいへん異なっている。後者の方法はサゴヤシやクズの澱粉をとる方法で、
ごくありふれた方法のように考えがちだが、これは人類の食物史では特筆すべき技術
的成果てある。この後者の方法は東南アジアの温帯でまずはじめに完成されたと考え
られる方法で、アフリカや新大陸ではほとんど発達しなかった。新大陸の高地では、
そのかわりイモ類の凍結、除毒、乾燥法が開発され、大きな成果をあげている。
・(東南アジアの)熱帯降雨林の植物界は驚くべき豊産性とバラエティに富んだ世界
である。そこに初めて住みついた原始人にとっては、そのまわりに食用となるイモや
果実がいたるところに見いだされる。その世界は、狩猟や放牧にたよらねばほとんど
人間の食物が見いだされない乾燥地や北方の寒冷地とまったくちがった世界である。
そこでは、ハナナ、ヤムイモ、タローイモ、サトウキピのような植物が、原始人にと
ってきわめて容易にとれ、しかもおそらく人類最初の栽培がはじまった。そしてそれ
は品種改良という点からみると、驚くべき高度にまで到達してしまっている.
・(カレーは)英語でトルメリック(Turmeric)、漢語でウコン(鬱金)と呼ぶ粉末で
ある。これはショウガ科に入るクルクーマ・ロンガという、バナナの草姿を一メート
ルくらいの小型にしたような草の、塊状のイモを乾燥して粉末にしたものである。こ
の植物は純然たる栽培植物で、たしかた野生種はまだわかっていない。
・カレーが日本に普及したのは明治以降だが、すこしく性格の似たショウガは文書の
歴史がはじまったころにはシナや目本へ渡来してきていた。温帯の日本やシナでみる
ショウガはかなり品種的に単調であるが、インドやマレー方面ではものすごい品種分
化をおこしている。ショウガもやはり野生種がまだわからない栽培植物だが、その起
源はカレーとほとんど同一の場所で同一の時代にはじまったと見なすべきであろう。
たまたまショウガの方が寒さに強いので、早期に温帯へ伝播したものであろう。
・東南アジアの熱帯降雨林の中でバナナ、ヤムイモ、タローイモ、サトウキビの四つ
の栽培植物を開発したことは、人類の生活史上の革命の一つだった。この四種の作物
を組み合わせた農業体系は、弾力性に富み、安定した食物生産を可能にするものであ
る。この方法で農業生産にたよった経済がはじめて成立可能となり、人類の長い旧右
器時代を通じて行なわれた採集経済から飛躍することが可能になったのである。この
農耕をする文化は根栽(イモ栽培)農耕文化と呼ばれている。
ところがこのイモ栽培を特色とする農耕文化は、地中海浴岸地帯(ムギ農耕の起源
地)やアフリカのサバンナ地帯では発生せず、また同一環境であるアフリカのコンゴ
一の熱帯降雨林地帯でも独立発生しなかったが、アメリカでは性格的にきわめてよく
似た根裁文化が独自に起源している。
照葉樹林文化
・これは熱帯降雨林の根裁文化の一部と雑穀栽培を主とするサパンナ農耕文化複合の
影響化にきわめて特色ある農耕複合文化を形成してきた。
その文化複合は純石器時代の採集経済の段階から、栽培農業、そしてたぶん青銅器
使用の段階まで連続してきたが、鉄器時代に人るころには照葉樹林文化の独立性は死
滅してしまったと考えられる。
これが成立したのは西はヒマラヤ南面の中腹から、シナ南部、日本本州南半部にわ
たる地域で、そこは大部分が山岳地帯で、広大な大平野はほとんどないといってよい

地帯である。茶と絹とウルシ、柑橘とシソ、それに酒などが代表的文化遺産である。
サバンナ農耕文化
・雑穀は種類が多いだけに草姿はいろいろある。とくに高さはいろいろある。禾本科
植物を生態的に区別する方法にトールグラス(高茎禾本)、ミッドグラス(中茎禾本)、
ショートグラス(短茎禾本)とわける便利な分け方がある。その植物の群落の中に人
がはいると、草の方が人より高くて、まったく人間の姿のみえない群落をつくるのが
トールグラスである。人が群落の中にはいると、腰から胸くらいまで草の中にかくれ、
人問の上半身が遠くからも見えるのはミッドグラスといい、草の高さが膝か、せいぜ
い股下くらいのものをショートグラスと分けている。たとえばトーモロコシはトール
グラスであり、ムギ類は全部ミッドグラスである。
・マメ類を食用にすろということは、いまではなんでもないように考えがちだが、こ
れは原始人にとって、なかなか困難の多いことである。東南アジアのジヤングルの中
に生まれた根裁農耕文化は、イモ類や果実類を栽培化し、食用としたのに、まわりに
たくさんあるマメ類は一つとして栽培化しなかったのだ。野生のマメはそんなに原始
人にとって食べにくいものだろうか。
マメ科植物は湿った地帯にも乾燥地帯にも、もともとたくさんの種類が野生してお
り、その多くは雑穀の粒とは比較にならない大きなマメがめだちやすいサヤの中に生
じている。ところがこれを食べようとすると、なかなかむつかしい。野生のマメ類に
は有毒性のものがそうとうあるし、この毒ぬきは一般に有毒なイモの毒ぬきよりむつ
かしいものである。そのうえマメはかたくて煮えにくいという性質がある。マメを食
べるには、ただ焼いたくらいではかたくて食べにくいものがふつうだから、どうして
も水を加えてやわらかに煮てやらねぱならない。それでマメの食用には鍋がどうして
も必要になる。土鍋でも金属製でもよいが、ともかくマメが人問の食糧のリストには
いるときは、鍋の存在、簡単にいえば、士器の発明以後とみてよい。その鍋でマメを
煮てみると、雑穀の精白してない粒より、マメ類の方がだいたい煮えにくい。だから
マメの栽培種は、野生のなかから煮えやすいものを選びだし、また栽培化してからも
品種改良で、より煮えやすい方向に淘汰されていかねばならなかった。げんざいわれ
われがふつうと考えていろ食用のマメは、その点ずいぶん改良されてきたものだが、
それでもまだ、たとえばダイズを煮るのがなかなかむつかしい作業であることは、台
所で煮豆を作った人ならだれでも知っているだろう.
・植物の種子をあつめて油をしぼりとる、これはなかなか高等な種子の食べ方である。
このような作物の栽培と、植物油を積極的に料理につかう習慣は、サパンナ農耕文化
にとっても、さいごの発展期のできごとであり、空前の大発明の一つであった。これ
をアブリカ原住民が成しとげたのだ。ヨーロッパのナタネ、アマなどのようなムギ栽
培の農耕文化からもいくつかの油料作物ができたが、これらはムギ畑の雑草起源で、
かなり新しいものだ。ヨーロッパの新石器時代にはムギの栽培はあっても、油料作物
はとくに栽培されなかったようだ。
・栽培化された雑穀の通有性をながめてみると、夏作物で、穀粒が小さいといったこ
とのほか、このたくさんの雑穀がぜんぶ一年生であることに気づいてくる。この一年
生という点は、ただ雑穀だけでなく、ムギ類、トーモロコシ、さらにマメ類の大部分
や果菜類、野菜類の大部分に共通する栽培植物として重要な特性である。
多年生の植物の群落では、その生育を人為で簡単に改良することはできない。つま
り一年生禾本の群落は、不安定であるが、かえってそれだけに人為的に助けて、よい
群落を作りやすいわけである。つまり農業は、年生禾本の群落を人為的に作ること
からはじまったというわけである。
・コメが人間の味覚上非常に好まれるという事実は、コムギと比較して検討すべき問

題であろう。人間の歴史をみて、コメからコムギに転換した民族は存在しないのに、
コムギ食民族はどんどん米食をとり入れていく現状である。
域中海農耕文化
・地中海気候というのは、冬に雨が多くて寒くなく、夏は乾燥した高温の気候である。
ムギ類はすべてこうした気候にもっともよく適合した性質のものである。ムギは秋に
なって種から発芽し、冬のあいだは適当な湿度にめぐまれて根を張り、春になって温
度が上がるにつれて急速に成長、出穂する。穂が成熟するころには温度は高く、乾燥
した空気のもとで麦秋の畑となる亡乾いた空気のもとで成熟したムギの穂の黄色は、
汚れなく輝いて美しく、日本の麦の穂などと比較にならないほどみごとな色調となっ
ている。
・地中海農耕文化をつくりあげた作物の特色としては、一年生ということのほか、温
帯では冬作物であることだ.
・二次作物の代表はエンバク類とライムギである。ムギ畑の雑章から昇格した章の他
の代表はナタネ類であろう。このようにムギを中心とした一群の雑章の中から、ぞく
ぞくと二次作物として栽培植物が昇格してきたことは地中海農耕文化の特色の一つで
ある。
・根裁農耕文化はブタとニワトリを家畜化した。サバンナのたぶん本来的にはなに一
つ動物を家畜化しなかった。ところが地中梅農耕文化はみごとなまでに動物を家畜化
した。ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ロバの存在なくしては地中海農耕文化を語ること
はできない。
・ヨーロッパの農業史をみると、中世までオームギの栽培が多かった。そのころヨー
ロッパのふつうの民衆はコムギのパンを食べることができたのはお祭りの日ぐらいだ
っただろうといわれている。ヨーロッパでコムギが圧倒的になり、製粉法も能率化し
たのは産業革命期であって、それ以来ヨーロッパ人はコムギのバンを食べて生活する
ようになったのだ。人間の食生活の基本的習慣、それは非常に変化がおこりにくいよ
うに感じられるが、事実はおどろくばかりの変化、変遷をおこしていたのだ。
新大陸の農耕文化
・サツマイモの原産地は、メキシコ付近らしい。
・ジヤガイモ類は、ほとんど全部がアンデス山脈の非常に高い四000メートルくら
いの伶温帯の農業の作物である。


参考文献
1)市川定夫:環境学第三版、藤原書店(1999)
2)沼田真:自然保護という思想、岩波新書(1994)
3)天笠啓祐:遺伝子組み換え(食物編)、現代書館(1997)
4)中尾佐助:栽培植物と農耕の起源:岩波新書(1966)
5)多田富雄:免疫の意味論、青土社(1993)
6)多田富雄対談集:生命へのまなざし、青土社(1995)での日沼氏の発言

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