子どもの頃、春になると、近くの川の土手にツクシを摘みに行った。春の柔らかな日差しの中でツクシを探すのが楽しみだった。両親と一緒のこともあれば、友達と行くこともあったが、春休みの年中行事だったものだ。小学校の頃はまだ近くにいくらも野っ原が残っていたし、アスファルト舗装のされていない道ばたには、いくらでも野草が生えていた。散歩の途中に、父親はよく田んぼのあぜ道のノビルやわき水のそばの芹を摘んでは名前を教えてくれた。摘んできたノビルは父親が台所に立って酢みそあえにした。
  家事を手伝うような父親ではなかったが、珍しいものは自分で作ってみたかったのだろうか。子どもの頃の野草の思い出と言えば、あとはヨモギがある。東京に住む母方の祖母は旅行好きで、末娘のことが気がかりでもあったのだろうが、年に一度くらい大阪の家に遊びに来た。私が何歳の頃か覚えてはいないけれど、おばあさんがヨモギを摘んできて、草だんごを作ってくれた記憶がある。そう言えば、母親も時々草だんごを作った。ヨモギをゆでて、もち粉かだんご粉を水で溶いて練ってから一緒に蒸したものをすりこぎでついて、丸めただんごに、あんこをのせた団子だったと思う。母はそれほど料理が得意ではなかったし、時間が経つと固くなってしまうので、あごが落ちるほどおいしかったとは言い難いけれど、それでも嬉しかったものだ。              
  そんな風で、ツクシやヨモギなどの草つみは春の楽しみだったが、大きくなるにつれて、また畑や田んぼで農薬が使われる時代になっていったせいもあって、昔の思い出となってしまった。 


             山ウド

  大沼に家を建てた翌年、5月の連休に数日滞在した折、ウドを求めて山を探し回った。ウドとよく似たアゾニュウやアマニュウの株はあちこちに見られるのに、ウドはなかなか見つからない。草むらの中に小さな株を見つけた時は、飛び上がるほど嬉しかった。早速掘り起こして持って帰り、皮を剥いて薄く切り、水にさらしてから、酢みそで食べた。白い茎部分はほんの数センチしかなかったが、独特の強い香りがしておいしかった。
  家を建ててもらった平野さんから、株を畑に植えれば大きく育つこと、生長につれて土をかぶせていけば茎の白い部分を長くできることを教えてもらった。
翌年は春が遅かったせいか、5月の連休にはウドはまだ顔を出してはいなかった。3年目の春に山から掘ってきたウドを畑に植えると、その翌年にはちゃんと顔を出し、夏には葉を茂らせすぎて困るほどに大きくなった。株も増え、5年目には畑の外に植えかえるまでになった。ウドの生長は早いが、こちらも負けじと土をかけると、ウドはまだ土の中にいると思って茎を伸ばす。その結果、白い部分が15センチくらいには伸びたウドが収穫できることとなった。
  大沼に住むようになってみると、山ウドは家の近くのあちこちに生えていることに気がついた。初めの頃あんなに見つけられなかったのがうそのようだ。結局連休の頃はまだウドの出る時期には早すぎたということが分かったのだが。

〈ウドの酢みそ合え〉
  ウドの定番。皮をむいてから、たてに薄くスライスし、水に数分さらす。春の香りを楽しむには、ゆでないで生のまま食べる方がおいしい。後は食べる前に酢みそであえるだけ。
*酢みそ(または甘酢)あえしたものをビンに入れて冷凍すれば、いつでも解凍するだけですぐ食べられるそうだ。

〈ウドの皮のきんぴら〉
  むいて残った皮や茎の上の方の細い部分を千切りにして、きんぴらにするとおいしい。

〈ウドの芽の天ぷら〉
  ウドの先端の芽の部分や若い葉を天ぷらにすると,アクもなくとてもおいしい。葉はぱりっと揚げること。小麦粉とコーンスターチを3:1くらいで衣を作るといい。


             ワラビ
  家を建ててから何年目かの春、やはりゴールデンウィークにこちらに来ていた時だ。その年は春が早く桜も4月末には満開になっていた。平野さんご夫婦が何かの用事で立ち寄られた。山菜の話になって、「ここいらではワラビもたくさんはえていますね。」とおっしゃりながら、足元を見て「ほら、ここにもあります。」と指さされた。確かにワラビだ。あらためてその辺りを見ると、あちこちにワラビが生えている。教えられるまでは、全く目に入っていなかったというわけだ。ただ、その翌年からは、連休の滞在中にみつけることはできなかった。5月中旬頃、ワラビは道ばたや林の中の草むらに次々と顔を出す。根元から少し上の部分は曲げるとぽきっと折れる。

〈ワラビのあく抜き〉
  ワラビはあくが強いので、必ずあく抜きをしてから調理する必要がある。それも摘んだら出来るだけ早くに行うこと。幸いここでは家のすぐ周りに生えている上に、草木灰はいくらでもあるので、あく抜きは簡単だ。
  摘んだワラビにはすぐ草木灰をかけておく。ナベに多い目の湯を沸かして、灰ごとナベに入れ、数分ゆでる。火を止めてそのまま一晩おいてから、水にさらす。
  本には「決してゆでないこと」と書いてあるものもあるが、熱湯をかけるだけでは、アクは抜けないようだ。ナベで沸騰させても問題はない(ゆですぎないこと)。

〈ワラビの和え物〉
  ワラビを包丁の裏で軽くたたいてつぶす。 5センチくらいの長さに切って、わさび醤油かカラシ醤油またはショウガ醤油であえる。粘りが出て、とてもおいしい。日が経っていないものを用いること。

〈ワラビと厚揚げの炊き合わせ〉
  ワラビを適当な長さに切って、ごま油で炒める。だし汁に醤油と砂糖で味をつけ、厚揚げ(薄揚げでもよい)を加えて、煮ふくませる。 

〈ワラビの保存法〉
・塩漬け:あく抜きしたワラビを容器に敷き詰め、塩をいっぱいにふる。イタドリの葉を敷いて、その上にまたワラビを敷き塩をふる。(繰り返し)
・乾燥:あく抜きしたワラビを10本ずつ位にまとめてひもで縛り、すっかり乾燥するまで干す。水戻しして調理。1年以上保存してもどうもないそうだ。

山菜
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