「函館の町づくりに望むもの・こんな函館の町を作ろうよ」


                         成 田 智 志


 古里の良さは吉里を離れた時にこそわかるとよく言う。同時にその町の良さは旅人

としての眼で見るとよくわかるともしばしぱ言われる。函館は父の生地ということ以

外、僕にはさして所縁もないところだが昨年は出張で訪れる機会が多く、すっかり

気に行ってしまった街。少しばかり旅人の「眼」から函館の町づくりに視線を向けて

みたい。

観光地を語るに避けて通れない物の例えに「名物に旨い物なし」があり、マスツー

リズムの負の産物としての「観光地化」現象があるが、さて函館はいかに。

イカ。これを「旨い物なし」と評したら罰が当たるというものだ。朝市で相も変ら

ず高額なカ二ばかり売らんかなといった光景を目にして、粋のいいイカの方が観光客

にずっーと喜ばれるはずなのにと思ってしまうのはちょっと貧乏性だろうか。胃の弱い

僕は朝食あっさり派だが、ホテルの朝食にイカ刺しが出てきて驚嘆。でも騙されたと

思って食べてまた驚嘆。朝からイカを食べて美味と感じたのは人生始まって以来だ。

函館の宿泊業者の心意気に痛く感動してホテルを後にした時のあの爽快感。そう、イ

カはウソ偽りのないまさしく「名物中の名物」。ヒジネスホテルの朝食メニューにイ

カがある都市は日本広しといえど函館だけではないだろうか。大いに誇れることだ。

それだけに前述した朝市の商売風情は奇異に映るのだ。もっとイカを売り込んでこそ

函館らしいのに。道内至る所に売られているカニ。今や海のない町にだって溢れ返っ

ている。「名物に旨い物なし」は実を伴わないことの悪い例えだが、イカはしっかり

実を伴っている。もちろん味も価格も。マスツーリズムが行き渡った今日、そんな朝

市の光景が、旅人に負の「観光地化」を意識させる遠困になっていることは否めまい。

[函館のイカは美味しい]という事実を観光客に真に体感してもらいたいという思考

が関係者に広がることを祈る。今の函館には、「市民の食卓に上るイカなんて」とい

う照れに似た空気を感じてしまうのがやはり残念だ。関係者の一考を促したい。



 さて、ヘそ曲がりな僕は函館山に昼間登る。くっきりと見渡せる二つの大海。澄ん

だ空。エキゾチックな街並み。夜景が美しい都市は函館に限らず多々ある。以前勤務

した北見にも絶好の夜景スポットがあり新婚時代は妻とよく行ったものだ。でも「昼

景」が美しい場所はそうそうない。函館山のそれは唯一無二、別格の美しさと形容し

ておこう。スケジュールの都合で夜景を見られず、昼景をしぶしぶ見た人も僕と同じ

ことを考えるに違いない。函館関連のウエップサイトを覗くと、「不況で町の灯りが

減り夜景は昔の輝きを失った」云々という地元関係者の批評をよく耳にする。でもそ

うとは知らず観光客は函館の町を見るため山に登る。「観光地化」という負のイメー

ジをこんな状況にフォーカスするのは意地悪すぎるだろうか。日本海と太平洋を同時

に見た時に覚える地球人としての自覚と感動は函館山の昼問以外では決して得られな

い無上のものだと僕は確信している。それぐらい函館山の「昼景」は価値が高い。無

論「夜景」が多くの人で賑わうことは大いに結構だが、「昼景」が醸し出す唯一無二

の情景も今後の親光振興に生かしてくれたらと切に願う。

話題転換。僕の生業は養護学校の教員。旅人を装っていても函館の町のバリアフ

リー度はいかにと目を凝らしてしまう悲しい習性がある。これには函館出身の生徒が

「身障者には住みにくい町だよ」と声を揃えて言う影響も多分にあるのだが。函館の

町を知り尽くしているわけでもない僕にこの話題を語る資格はないのかもしれないが、

足を向けたスポットに感じる印象は「発展途上」。あえて身障者用トイレにだけ話題

を絞れば、あるところ、ないところ半々。採点は五○点。手厳しい採点と思うなかれ。

道央圏の場合は赤点ぎりぎり三十点。要は「バリアフリー」とか「福祉行政」なんて

いう堅苦しい用語に縛られないことだ。トイレを設置する際には身障者用もあるのだ

が普通にすればいいだけなのだから。それが推進されれば函館の町の「観光地化」が

時代の二一ズに見合った正のベクトルに向いていくことは間違いない。障害者に優し

い町づくりが観光地としての繁栄をもたらすことはこれまでの歴史が証明しているの

だから。

観光に携わる人々の意識改革と外の人間の意見を積極的に採り入れた思い切りのい

いインフラ整備こそが望ましい「観光地」を作る素である。まずは函館の町づくりの

ために函館に住まう人々の叡智が集わんことを願う。そして僕もしばしば旅人として

函館を愛したい。いつの日か、父の生地に終のすみかを構えたいと願いながら。



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